マリーの出撃!

スージー級戦闘機

 2021年、マリーはまだ13歳で母のアテナにくっついて既に5年間もフランスのパリで地球人になりすまして暮らしていた。
 マリー達、プレアデスのタイゲタ人を始めとする銀河連邦の構成種族は直接介入して陰謀団から地球人を救うことは許されていない。それをすると地球人の自立進歩を邪魔して依存させてしまい進化に逆行するからというのが理由だ。この理由に対し、地球人に共感できるタイゲタ人達は異論を持っているため銀河連邦から睨まれている。
 しかし、地球人が自立進歩するために支援出来ることは他にもいろいろあるので、今も多くの恒星間種族が地球人を支援するためのスターシードを地球に派遣している。そのため地球の南極にある銀河連邦管轄の巨大基地には沢山の宇宙船が往来しているが、地球では飛行禁止地域になっているので民間人は全く気付いていない。

 マリー達タイゲタ人はリラ星人を共通の祖先としてるため地球人と外見が大変よく似ているので特に変装しなくても地上を歩いていて不審に思われないのが楽な点だ。
 母のアテナはヘルスフィットネスや護身術のクラスを仕事にしていた。
 マリーはクラシックバレエンスのクラスを2年以上受講していて、それがとても大好きで、プロのクラシックダンサーになることを真剣に考えていた。マリーはそのためにダンスと同じように体操も精力的にトレーニングしていた。体操のトレーニングは非常に柔軟で、バレエにも連携して進歩出来るからだ。
 彼女達は年に数回、休暇をとり主にアンドロメダ宇宙ステーションのビエラや惑星シンドリエルで重力の重い地球のストレスを癒して過ごしていた。

 しかし、その地球であのパンデミックが起きたのだ。彼女達が住んでいた地域ではパンデミックヒステリーが最高潮に達してしまったので、母は仕事にしていたヘルスフィットネスや護身術のクラスを中止した。マリーもその頃、学校にも通うのをやめた。

 あの状況でマリーを孤立させたのは義務そのものではない。人々がそのような明らかに間違った義務にいとも簡単に従ってしまうという逆進的態度に直面し、マリーは間違った義務とそれに騙されてしまう同級生の双方に既に進化してる魂を傷付けられたのだった。そして店で何かを買うという単純な場面でも深刻な個人的な痛みを抱えた。当然のように社会全体で深刻な拒絶の問題が起こっていたので、母も痛みを感じていて、彼女たちはその状況がなくなるまで、しばらく地球を離れることに決めたのだった。

 

   ◇

 パリから内陸には移動した彼女たちは夕方に小高い丘に辿り着いた。そこは母アテナが宇宙と地球との発着に使っている地点だ。
 宇宙船はすでに着陸していて、機体は円盤ではなく、胴長で小さな翼がいくつも付いている最新型だ。それは母が正式に所有するタイゲタンのスージー級戦闘機TPT157Mで、向こうの景色を機体に映し出すことでカムフラージュしてるためパッと見ても気付かれない。
 母がAIに呼びかけると機体の壁が下に開いて階段を地面に下ろした。
「さあ、マリー、早く乗って」
 しばらく地上には戻れない気がして地球の景色を振り返っていたマリーは「うん」と返事して船内に駆け込んだ。
 コックピットのアテナの隣に並るとマリーは聞いた。
「行く先はタイゲタンの旗艦?」
「トレカは今、地球の軌道にいないから、とりあえずアンドロメダの生物圏宇宙母船ビエラに行く予定でいるわ。そこのドックに入ってしばらくこのシーザーを家として使って暮らすのよ」
「うん、わかった」
 生物圏宇宙母船というのは最も巨大で内部に本当に広い自然区域を持っているのが特徴だ。またスージー級戦闘機は2人の家にするにも十分な広さがあった。なぜ母親が戦闘機を所有してるかというと彼女の仕事はパーソナルトレーナーだけでなく、タイゲタン社会に奉仕する戦闘パイロットでもあったからだ。

 AIはタイゲタン司令部からの通告を伝えて来た。
 2021年半ば、タイゲタン当局と敵対者であるローグ(ならず者)同盟に内通した個人との間で問題が発生しているのだ。当局者の注釈があり、どうやら地球の退行陰謀団が主導してタイゲタン評議会を調略支配しようとする手の込んだ陰謀の一部であり、その人物は当時タイゲタンの宇宙船に追われているということだ。
 その人物の宇宙船が丁度マリーたちのいる領域に入る可能性があるので細心の警戒が必要であるという内容だ。
 母は警戒していたが、ずっと警戒し続けるのもストレスがたまるので、ある日、母は月の後ろに隠れている古いアンドロメダのくさび形の生物圏巨大宇宙母船の中にうまく入り込んだ。そこは現在、活発には使用されていない母船だが、施設自体の動力は生きているので休憩に停泊するのは可能だった。
「着いたわね。じゃあ一緒に自然区域でのんびり休もうか」
 母はそう言ったが、マリーはあまり気乗りしなかった。
「なんかここの自然区域は古くてじめじめして暗くて好きじゃない」
「そう、ならいいわ。マリーは一人で留守番してなさい。私は水浴びでもして4時間ぐらいで戻るから」
「うん、留守番してるよ」
 マリーが言うと、母は「少尉さん、頼んだわよ」とマリーの肩を叩いて去った。

 母親が出かけて2時間近く経った時のことだ。

 突然、戦闘機シーザーのAIがタイゲタンが探しているローグ船の近接検知警報をけたたましく鳴らし始めた。

「お母さんを呼び出して」
 マリーはAIに頼んだ。すぐにコックピットの後ろで呼び出し音が鳴った。
 AIが答える。
「呼び出しは不可能。アテナはデバイスの入った上着を置いたまま外出中」
 マリーはテレパシーで呼び出せないか、集中してみたが、相手がその気になってないとそれも難しい。
「どうしよう」
 マリーはどうすればいいかわからず焦った。
 AIが警告する。
「ローグ船が接近中、接近中」
 コクピットモニターを見るとローグ船がそばをかすめて通過する飛行経路に入っている。そしてここに接近した後は、またすぐにどこかに飛んで行き、タイゲタンは再びローグ船を見失うだろう。
 マリーも基本的な操縦技術は母から教わって出来るようになっていた。この機会を逃したら後で大いに後悔することになる。
「よおし、追跡しよう」
 マリーは果敢に決断を下した。もちろんAIもマリーの経験を知っている。マリーは戦闘機シーザーに指示した。
「ハンナから至急離陸して」
「目的地はどこですか?」
「接近中のローグ船を追跡するの、ホット・パースートで全速力!」
「了解」
 それは無謀な出撃だった。マリーは基本的な操縦はひと通り出来るようになっていたものの、ステラ航法についての全てを習ってはいなかった。しかし、その時、13歳の中学生は自分は十分に知っていると思い込んでいたし、AIにもマリーの操縦技術が未熟だからと拒否する手順はなかった。
 さらにまずいことに、マリーが追跡しようとしている相手はデータベースによると、タイゲタンの同型戦闘機であり、乗員は優秀な女性パイロットであり、さらに経験豊富なベテラン教官の履歴まであったのだ。
 マリーが猛スピードで追って来ることに気づいた敵パイロットは場所から場所へ何度もジャンプを繰り返す戦闘機動を実行し始めた。
 それはマリーを振り切ろうとするランダムな機動で母に習った事もない動きだった。

 

 マリーはAIに叫んだ。
「あの動きは何なの?」
「スペーススキップです」
「どうすればいいの?」
「敵機の目的地の周波数検出を指示して下さい」
「それをお願い」
「了解、モニターに表示します」

 そこでAIが警告した。
「警告、敵機が妨害チャフを放出」
「それは何?」
「機体の位置特定を妨害するための周波数放射物質。
 妨害は数秒から数分続くので別の戦闘機がその妨害周波数を発見出来るのが弱点」
「じゃあ私が見失っても仲間の戦闘機が気付いてくれる可能性がある?」
「そうなります」

「敵機がタイムスキップも追加」
「もう聞かなくてもわかる。空間だけでなく時間もスキップしたのね」
「その通り」
「こっちは中学生なんだから手加減してよ」
「敵機にそう送信しますか?」
 AIの間抜けな質問にマリーは叫んだ。
「ダメ、絶対しないで」

 こうしてマリーが追跡していたパイロットが戦闘操縦に非常に熟練していたため空間スキップだけでなく、時間スキップも併用し始めたため目的地の周波数検出のタスクは格段に難しくなった。
 それは敵戦闘機パイロットが単にそこから急移動する時、ランダムな場所からランダムな場所へ移動するだけでなく、敵戦闘機が出入りするそれぞれの場所の別の瞬間にシフトジャンプすることを追加出来るため、敵戦闘機がどこにあったかだけでなく、いつそこにあったのかまでを考慮した別のレベルの検出問題が追加されるのだ。
 マリーはモニターに映し出される沢山の数字に頭を抱えたくなった。これでは手間が増えて追跡の時間ロスと空間ロスが大幅に増えてしまう。
「警告、敵機が機雷を残置。回避します」
「!!!」
 敵戦闘機の出入りするランダムな場所に敵の機雷が残されているのが判明した。うっかり接触したらこの機体を爆発させるという明らかな意図だ。最悪こちらは撃墜されてしまうのだ。これはもはや追跡ではなく命を賭けた戦闘になってきた。
 マリーはモニターのコントロールパネルに乗せてる掌がじっとりと汗ばむ不快さを感じて心の中に叫んでいた。
(助けて、お母さん!)
 マリーはモニターに出るデータを見やすくするため最新のものだけで上書きして追跡を続けた。

 敵機のベテランパイロットはマリーが大きな脅威であると考え最善の反撃を散りばめて逃げている。その理由は彼女の船がタイゲタンの型番TPT-156が付けられたスージー級戦闘機であり、マリーの戦闘機TPT157MがスージーⅡ、スーパースージーと呼ばれる最新改良モデルであることを検出したため、彼女にとって最大の危険な敵と分類されたためだろう。
 しかし本当のところ、敵機のパイロットはこちらのパイロットが素人同然な13歳の中学生であることを知らないのだ。マリーはパリの中学校に通うバレエダンサー志望で、経験豊富な戦闘機パイロットの能力の1割ぐらいの能力しかないのに。

 そして素人中学生パイロットはほんの数分のうちに敵機だけでなく自分の時間と空間の座標まで見失ってしまった。
 マリーはAIに叫んだ。
「どこを飛んでるの?」
「以前の周波数はどこでした?」
「ええと、今の周波数ならわかるわ」
「いいえ、その直前の周波数です」
「ええっと、もう上書きしたわ」
「どうして? そんなことを? 上書きしたら履歴を遡れません」
 迷子になって元の場所に戻ることも出来ないというのだ。マリーはそれぞれのジャンプについて最初の周波数マップを繰り返し上書きしてしまっていた。それは全く余計なことだった。何もせずに画面に流れるままにしておけば履歴は自動保存されていたのだ。
 マリーがそこまで熱くなってしまったのは、もしタイゲタンたちが懸命に探していた裏切り者を自分が捕まえれば、母がマリーをとても誇りに思って褒めてくれると想像したためだ。そもそもマリーには高度な戦闘機スキルが全く欠けているのにも拘わらずにそんな夢を描いてしまったのだ。
 マリーはとんでもない迷子になってしまい絶望した。へたをすれば宇宙を漂い餓死するしかない。
  
   ◇

 しかし、そこで突然の奇跡が起きた。
「そちらのTPT-157Mのパイロット、応答願います」
 誰かがタイゲタンの軍事回線で交信してきたのだ。
「こちらはローグ船の妨害周波数を発見した、貴官の追跡に感謝する」
 優秀な女性戦闘機パイロットが同じローグ船を探していて、その船のスキップパターンを発見してくれたようだ。さらにその彼女はマリーの船が途中までローグ船を追跡していたことも発見してくれて、情報を得ようと呼びかけてくれたのだ。
 その声は母の声にそっくりだったが、マリーは敵の罠かもしれないと疑心暗鬼になっていて、ビデオ回線は切ってまず音声だけで通話することにした。
「ローグ船の最新情報を教えてほしい、貴官の名前を名乗って」
 マリーは急いで答えた。
「私はミネルバ・マリー・スワルー」
 すると相手も名乗った。
「私はアテナ・エリザベス・スワルーよ」
 マリーはビックリした。
「えっ、まさかお母さんの名前と同じ。そんな筈はないよね?」
「今すぐビデオを点けて」
「どういうこと?」
 マリーが急いでビデオ回線もオンにして見ると彼女の容姿は母親よりずっと若くて違って見えた。
 同時にアテナの方もマリーがまだ中学生の年齢なのを見てショックを受けたようだった。
「貴方はいくつなの?」
「私は13歳。アテナはいくつ?」
「私は18歳。貴方もスワルーニア族ならスワルー9が砂時計と呼ばれた戦闘機のパイロットを重ねて時間の仕組みを発見した話は知ってる筈よね、あなたのお母さんのアテナはきっとタイムラインが違うアテナなのよ」
「そうなのね、別のタイムラインのアテナなのね。私は自分のタイムラインを踏み外してしまったんだわ」
「マリー、それより貴方の機長と話をしたいわ、その機内にいるんでしょ?」
「アテナ。その、あの、お母さんが機長なの。お母さんがアンドロメダ母船の自然区域に休憩に出てる間に近接検知警報が鳴り出して、私は今すぐ飛ばないとならず者を見失うと思って一人で飛び出したの」
 アテナはびっくりした。
「えっ、貴方一人で飛んで来たの? 無茶よ、戦闘操縦訓練を受けてないでしょ?」
「そうなの、だから周波数マップを上書きしちゃって、その、今、私は迷子になってるの」
 アテナは溜め息を吐きそうなのを止めて優しく言った。
「大丈夫よ。もう貴方の位置は特定できてるから貴方はもう操縦しなくていい。私の船とお腹のハッチでドッキングして一緒に連れてゆくわ」
「ありがとう、アテナ」
「ティナと呼んで」
 
 アテナは両方の船をドッキングさせ、AIコンピューターをミラーリンクした。これでマリーの船はアテナの船と完全に同期してドッキングしたまま飛行出来るのだ。
 マリーはドキドキしながらアテナの船に乗り込んで深呼吸して言った。
「ティナ、ありがとう」
「どうしたしまして」
「ティナは私の命の恩人よ。こんなことを言ったら変だと思われるだろうけど……」
「ええ、何かしら?」
「あなたは未来で私の母親になるんだと思う」
 マリーはそう言いながら、タイムラインがずれて生き別れになった母親のことを思い出して急に泣き出してしまった。
 するとアテナはマリーをハグして言った。
「そうなのね。わかったわ。もう泣かないで、あなたが元のタイムラインに戻れる道を探してあげるからね」
 それでもマリーは泣くことを止められなかった。
「但し、ひとつだけ条件があるわ。産んだ母親のところに戻るまでは私があなたの母親よ」
 アテナの優しい気遣いにマリーは涙を拭いた。
「ティナ、ありがとう」
「しかしその前にしなければならない事があるわよ」

 アテナはマリーを彼女のコックピットの隣に座らせ、マリーの船は切り離しアテナの船のコンピューターにリンクされたAIパイロットによって後方を追尾させた。
 まもなくアテナはローグ船を見つけ出した。
 そこでマリーはアテナの高度な戦闘技術を目の当たりにした。
 アテナは敵のパイロットとの間に非常に神経をすり減らす一連の戦闘機動を繰り返しながら、少しずつ時間と空間の両方を高速で飛ばし、やがてプロキシマ・ケンタウリ星系におびき出した。
 そのあたりはアテナのよく知ってるその空域で、アテナはローグ船のパイロットがまだ亜空間にいるうちに、正確に次にどこから敵機が現れるかを予測することが出来たのだ。
 そして次に到着する空域に先回りするとそこにマリーのスージー級戦闘機を停止させて囮として配置した。

 やがてローグ船がハイパースペースから現れた。
 すると敵機のパイロットの注意はマリーの乗ってきた空っぽの戦闘機がどう動くかに釘付けとなってしまい無駄に何秒間を浪費して、アテナの戦闘機に気が付かなかった。
 その数秒、非常に素早いスピードでアテナはローグ戦闘機に連続ビーム砲攻撃を決めた。敵のエンジンは火と煙を吐いて機能停止した。
「やったあ! すごいよ、ティナ!」
 このアクションシーンは、マリーがこれまで生きてきた中で最もエキサイティングな出来事だった。
 その後、母親同様に武道の専門家でもあるアテナは勇敢にローグ戦闘機に乗り込んだ。そしてマリーがアテナのコックピットで爪を噛みながら待っている間にローグのパイロットを単独で逮捕して来た。
 2時間も経たないうちにタイゲタンのトレカ級重巡洋艦が到着し、他の数隻のタイゲタン戦闘艦とそれを搭載した多数のケンタウリ・アルフレッド・アンド・ミリタリーが何が起こっているかを監視するために到着した。
 何が起こったかを証言するためにアテナとマリーの2機と半破壊され拿捕された1機の戦闘機と拘留されたローグのパイロットと共にアテナとマリーは再びタイゲタンの惑星テルマに戻って来た。
 アテナ・エリザベス・スワルーはテルマのトレカシティ宇宙港に着くと、軍の司令官から公式に誰も死なせずに戦闘機を撃墜した功績を表彰された。
 今は全ての興奮が去ったが、今日に至るまで彼女はタイゲタンスージー級戦闘機を撃墜することに成功した唯一の戦闘機パイロットだ。
   
   ◇

「じゃあマリー、お母さんのところへ帰る道を探すわよ」
 マリーの船とリンクされたアテナの船のAIは、マリーが家に帰れるように周波数を解読して再プログラムできるようするため、まずマリーがどういう時空を辿って来たのかを見つけるために全てのデータを調査し始めた。
「ティナ、大丈夫? 私、上書きしたから消えてるかもしれないの」
「AIの推定修復を使えば復活出来る可能性があるわ」
 しかし、結局、それらのデータはマリーがよく知らずに短期の上書きを何度も何度も繰り返したためすべてが修復不可能なまで消去されてしまった事が判明した。
 マリーの心は沈み、とても悲しくて、ただ泣くことしかできなかった。
 アテナはマリーをハグした。
「私はもう貴方の母親であり、私が貴方の悲しみを理解しているから、何も心配する必要はないのよ」
 マリーは泣きながらその通りだと感じたが、でも涙は止まらなかった。

  
   ◇

 マリーはテルマに着いた。マリーの新しい家は地球軌道を周回する旗艦トレカだ。そこではタイゲタンのアレニム女王とアテナの友人たちが彼女を歓迎してくれた。そしてマリーは4歳年下だが果敢な発言と行動で銀河連邦のお偉方をビビらせてる小さなソフィア・ヤスヒ・スワルーに会った。

 もうすぐここに来て2年が経つが、マリーは今も旗艦トレカで新しい母親としてのアテナと妹ヤスヒと一緒に暮らしている。それでもマリーはまだ元のタイムラインに戻ることができないのが心残りで(元の母親がとても恋しいよ)というのがマリーの本音だった。すると今の母親のアテナと妹のヤスヒは揃って「別のタイムラインにいる元の母親は失われておらず、マリーは自分の頭の中で勝手に喪失感に苦しんでいるだけだよ」と主張して笑うのだ。

 なぜなら、そこは私たち全員がいるこのタイムラインと無関係で、時間が動いていないからだ。だから私の元の母親は失われてないし、私が行方不明になったことすら気付いてない。もし元の場所への周波数コードが何らかの方法で回復できれば私は戻れるし、元の母親は私が行方不明だったと気付かないだろう。もっとも私が一瞬で2歳年を取って背が伸びたことには気付くかもしれないが……。
 2人が私を励まそうと話す内容を聴いてると全然励ましにならないし、めちゃくちゃだと思うけど、まあ、そういうことにしといてあげるよ。
 私は今、ここにいる、これが私の家族だ、そして彼女たちをとても愛している。 了

 

 


このショートはこちらの動画を小説仕立てにしたものです。
https://youtu.be/XE_3jI89Ujc?si=Dq0t-CtIAom32NNw